小判《こばん》、打出《うちで》の小槌《こづち》、寶珠《はうしゆ》など、就中《なかんづく》、緋《ひ》に染色《そめいろ》の大鯛《おほだひ》小鯛《こだひ》を結《ゆひ》付《つ》くるによつて名《な》あり。お酉樣《とりさま》の熊手《くまで》、初卯《はつう》の繭玉《まゆだま》の意氣《いき》なり。北國《ほくこく》ゆゑ正月《しやうぐわつ》はいつも雪《ゆき》なり。雪《ゆき》の中《なか》を此《こ》の紅鯛《べにだひ》綺麗《きれい》なり。此《こ》のお買初《かひぞ》めの、雪《ゆき》の眞夜中《まよなか》、うつくしき灯《ひ》に、新版《しんぱん》の繪草紙《ゑざうし》を母《はゝ》に買《か》つてもらひし嬉《うれ》しさ、忘《わす》れ難《がた》し。
 おなじく二日《ふつか》の夜《よ》、町《まち》の名《な》を言《い》ひて、初湯《はつゆ》を呼《よ》んで歩《ある》く風俗《ふうぞく》以前《いぜん》ありたり、今《いま》もあるべし。たとへば、本町《ほんちやう》の風呂屋《ふろや》ぢや、湯《ゆ》が沸《わ》いた、湯《ゆ》がわいた、と此《こ》のぐあひなり。これが半纏《はんてん》向《むか》うはち卷《まき》の威勢《ゐせい》の好《い》いのでなく、古合羽
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