《ふるがつぱ》に足駄穿《あしだば》き懷手《ふところで》して、のそり/\と歩行《ある》きながら呼《よ》ぶゆゑをかし。金澤《かなざは》ばかりかと思《おも》ひしに、久須美佐渡守《くすみさどのかみ》の著《あらは》す、(浪華《なには》の風《かぜ》)と云《い》ふものを讀《よ》めば、昔《むかし》、大阪《おほさか》に此《こ》のことあり――二日《ふつか》は曉《あけ》七《なゝ》つ時《どき》前《まえ》より市中《しちう》螺《ほら》など吹《ふ》いて、わいたわいたと大聲《おほごゑ》に呼《よ》びあるきて湯《ゆ》のわきたるをふれ知《し》らす、江戸《えど》には無《な》きことなり――とあり。
 氏神《うぢがみ》の祭禮《さいれい》は、四五月頃《しごぐわつごろ》と、九十月頃《くじふぐわつごろ》と、春秋《しゆんじう》二度《にど》づゝあり、小兒《こども》は大喜《おほよろこ》びなり。秋《あき》の祭《まつり》の方《はう》賑《にぎは》し。祇園囃子《ぎをんばやし》、獅子《しし》など出《い》づるは皆《みな》秋《あき》の祭《まつり》なり。子供《こども》たちは、手《て》に手《て》に太鼓《たいこ》の撥《ばち》を用意《ようい》して、社《やしろ》の
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