の浪の響《ひびき》も、春風の音にかわって、梅、桜、椿《つばき》、山吹《やまぶき》、桃も李《すもも》も一斉《いちどき》に開いて、女たちの眉《まゆ》、唇、裾八口《すそやつくち》の色も皆《みな》花のように、はらりと咲く。羽子《はご》も手鞠《てまり》もこの頃から。で、追羽子《おいはご》の音、手鞠の音、唄の声々《こえごえ》。
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……ついて落《おと》いて、裁形《たちかた》、袖形《そでかた》、御手《おんて》に、蝶《ちょう》や……花。……
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かかる折から、柳、桜、緋桃《ひもも》の小路《こみち》を、麗《うらら》かな日に徐《そっ》と通る、と霞《かすみ》を彩《いろど》る日光《ひざし》の裡《うち》に、何処《どこ》ともなく雛の影、人形の影が※[#「彳+尚」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》う、……
朧夜《おぼろよ》には裳《も》の紅《くれない》、袖《そで》の萌黄《もえぎ》が、色に出て遊ぶであろう。
――もうお雛様がお急ぎ。
と細い段の緋毛氈《ひもうせん》。ここで桐《きり》の箱も可懐《なつか》しそうに抱《だき》しめるよ
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