向《ひなた》へ蛇が出ている時は、雨を持つという、来がけに二度まで見た。
 で、雲が被《かぶ》って、空気が湿《しめ》った所為《せい》か、笛太鼓《ふえたいこ》の囃子《はやし》の音が山一ツ越えた彼方《かなた》と思うあたりに、蛙《かえる》が喞《すだ》くように、遠いが、手に取るばかり、しかも沈んでうつつの音楽のように聞えて来た。靄《もや》で蝋管《ろうかん》の出来た蓄音器《ちくおんき》の如く、かつ遥《はるか》に響く。
 それまでも、何かそれらしい音はしたが、極めて散漫で、何の声とも纏《まと》まらない。村々の蔀《しとみ》、柱、戸障子《としょうじ》、勝手道具などが、日永《ひなが》に退屈して、のびを打ち、欠伸《あくび》をする気勢《けはい》かと思った。いまだ昼前だのに、――時々牛の鳴くのが入交《いりまじ》って――時に笑い興《きょう》ずるような人声も、動かない、静かに風に伝わるのであった。
 フト耳を澄ましたが、直ぐに出家の言《ことば》になって、
「大分《だいぶ》町の方が賑《にぎわ》いますな。」
「祭礼でもありますか。」
「これは停車場《ていしゃば》近くにいらっしゃると承《うけたまわ》りましたに、つい御近所
前へ 次へ
全95ページ中76ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング