人馴《ひとな》れぬ女だち物恥《ものはじ》をしよう、いや、この男の俤《おもかげ》では、物怖《ものおじ》、物驚《ものおどろき》をしようも知れぬ。この路を後《あと》へ取って返して、今|蛇《へび》に逢《あ》ったという、その二階屋《にかいや》の角《かど》を曲ると、左の方に脊《せ》の高い麦畠《むぎばたけ》が、なぞえに低くなって、一面に颯《さっ》と拡がる、浅緑《あさみどり》に美《うつくし》い白波《しらなみ》が薄《うっす》りと靡《なび》く渚《なぎさ》のあたり、雲もない空に歴々《ありあり》と眺めらるる、西洋館さえ、青異人《あおいじん》、赤異人《あかいじん》と呼んで色を鬼のように称《とな》うるくらい、こんな風《ふう》の男は髯《ひげ》がなくても(帽子被《シャッポかぶ》り)と言うと聞く。
尤《もっと》も一方《いっぽう》は、そんな風《ふう》に――よし、村のものの目からは青鬼《あおおに》赤鬼《あかおに》でも――蝶《ちょう》の飛ぶのも帆艇《ヨット》の帆《ほ》かと見ゆるばかり、海水浴に開《ひら》けているが、右の方は昔ながらの山の形《なり》、真黒《まっくろ》に、大鷲《おおわし》の翼《つばさ》打襲《うちかさ》ねたる趣《
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