であります。
 さ、これもじゃ、玉脇の家の客人だち、主人まじりに、御新姐《ごしんぞ》が、庭の築山《つきやま》を遊んだと思えば、それまででありましょうに。
 とうとう表通りだけでは、気が済まなくなったと見えて、前《まえ》申した、その背戸口《せどぐち》、搦手《からめて》のな、川を一つ隔てた小松原の奥深く入《い》り込んで、うろつくようになったそうで。
 玉脇の持地《もちじ》じゃありますが、この松原は、野開《のびら》きにいたしてござる。中には汐入《しおいり》の、ちょっと大きな池もあります。一面に青草《あおぐさ》で、これに松の翠《みどり》がかさなって、唯今頃《ただいまごろ》は菫《すみれ》、夏は常夏《とこなつ》、秋は萩《はぎ》、真個《まこと》に幽翠《ゆうすい》な処《ところ》、些《ち》と行らしって御覧《ごろう》じろ。」
「薄暗い処ですか、」
「藪《やぶ》のようではありません。真蒼《まっさお》な処であります。本でも御覧なさりながらお歩行《ある》きには、至極|宜《よろ》しいので、」
「蛇がいましょう、」
 と唐突《だしぬけ》に尋ねた。
「お嫌いか。」
「何とも、どうも、」
「否《いえ》、何の因果か、あの
前へ 次へ
全95ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング