「眉の太い、怒《いか》り鼻《ばな》のがあり、額《ひたい》の広い、顎《あご》の尖《とが》った、下目《しため》で睨《にら》むようなのがあり、仰向《あおむ》けざまになって、頬髯《ほおひげ》の中へ、煙も出さず葉巻を突込《つッこ》んでいるのがある。くるりと尻を引捲《ひんまく》って、扇子《せんす》で叩いたものもある。どれも浴衣《ゆかた》がけの下司《げす》は可《い》いが、その中に浅黄《あさぎ》の兵児帯《へこおび》、結目《むすびめ》をぶらりと二尺ぐらい、こぶらの辺《あたり》までぶら下げたのと、緋縮緬《ひぢりめん》の扱帯《しごき》をぐるぐる巻きに胸高《むなだか》は沙汰《さた》の限《かぎり》。前のは御自分ものであろうが、扱帯《しごき》の先生は、酒の上で、小間使《こまづかい》のを分捕《ぶんどり》の次第らしい。
 これが、不思議に客人の気を悪くして、入相《いりあい》の浪も物凄《ものすご》くなりかけた折からなり、あの、赤鬼《あかおに》青鬼《あおおに》なるものが、かよわい人を冥土《めいど》へ引立《ひきた》てて行《ゆ》くようで、思いなしか、引挟《ひきはさ》まれた御新姐《ごしんぞ》は、何んとなく物寂《ものさび》し
前へ 次へ
全95ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング