、すなおな、房《ふっさ》りした花月巻《かげつまき》で、薄《うす》お納戸地《なんどじ》に、ちらちらと膚《はだ》の透《す》いたような、何んの中形《ちゅうがた》だか浴衣《ゆかた》がけで、それで、きちんとした衣紋附《えもんつき》。
絽《ろ》でしょう、空色と白とを打合わせの、模様はちょっと分らなかったが、お太鼓《たいこ》に結んだ、白い方が、腰帯に当って水無月《みなづき》の雪を抱《だ》いたようで、見る目に、ぞッとして擦《す》れ違う時、その人は、忘れた形《なり》に手を垂れた、その両手は力なさそうだったが、幽《かすか》にぶるぶると肩が揺れたようでした、傍《そば》を通った男の気《け》に襲われたものでしょう。
通《とお》り縋《すが》ると、どうしたのか、我を忘れたように、私《わたし》は、あの、低い欄干《らんかん》へ、腰をかけてしまったんです。抜けたのだなぞと言っては不可《いけ》ません。下は川ですから、あれだけの流れでも、落《おっこ》ちようもんならそれっきりです――淵《ふち》や瀬でないだけに、救助船《たすけぶね》とも喚《わめ》かれず、また叫んだ処《ところ》で、人は串戯《じょうだん》だと思って、笑って見殺し
前へ
次へ
全95ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング