出ましょうかね。)
 爾晩《そのばん》は貴下《あなた》、唯《ただ》それだけの事で。
 翌日また散歩に出て、同じ時分に庵室《あんじつ》へ帰って見えましたから、私《わたくし》が串戯《じょうだん》に、
(雪舟の筆は如何《いかが》でござった。)
(今日は曇った所為《せい》か見えませんでした。)
 それから二、三日|経《た》って、
(まだお天気が直りませんな。些《ち》と涼しすぎるくらい、御歩行《おひろい》には宜《よろ》しいが、やはり雲がくれでござったか。)
(否《いや》、源氏《げんじ》の題に、小松橋《こまつばし》というのはありませんが、今日はあの橋の上で、)
(それは、おめでたい。)
 などと笑いまする。
(まるで人違いをしたように粋《いき》でした。私《わたし》がこれから橋を渡ろうという時、向うの袂《たもと》へ、十二、三を頭《かしら》に、十歳《とお》ぐらいのと、七八歳《ななやッつ》ばかりのと、男の児《こ》を三人連れて、その中の小さいのの肩を片手で敲《たた》きながら、上から覗《のぞ》き込むようにして、莞爾《にっこり》して橋の上へかかって来ます。
 どんな婦人《おんな》でも羨《うらやま》しがりそうな
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