とぐろでも巻いている処へ、うっかり出会《でっくわ》したら難儀《なんぎ》だろう。
どの道《みち》余計なことだけれど、お前さんを見かけたから、つい其処《そこ》だし、彼処《あそこ》の内《うち》の人だったら、ちょいと心づけて行《ゆ》こうと思ってさ。何ね、此処《ここ》らじゃ、蛇なんか何でもないのかも知れないけれど、」
「はあ、青大将《あおだいしょう》かね。」
といいながら、大きな口をあけて、奥底《おくそこ》もなく長閑《のどか》な日の舌に染《し》むかと笑いかけた。
「何でもなかあねえだよ。彼処《あすこ》さ東京の人だからね。この間《あいだ》も一件《いっけん》もので大騒ぎをしたでがす。行って見て進《しん》ぜますべい。疾《と》うに、はい、何処《どっ》かずらかったも知んねえけれど、台所の衆とは心安《こころやす》うするでがすから、」
「じゃあ、そうして上げなさい。しかし心ない邪魔をしたね。」
「なあに、お前様、どうせ日は永《なげ》えでがす。はあ、お静かにござらっせえまし。」
こうして人間同士がお静かに分れた頃には、一件はソレ竜《りゅう》の如きもの歟《か》、凡慮《ぼんりょ》の及ぶ処《ところ》でない。
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