すが、あの歌に分れて来たので、何んだかなごり惜《おし》い心持《こころもち》もします。」
「けれども、石段だけも、婀娜《あだ》な御本尊《ごほんぞん》へは路《みち》が近うなってございますから、はははは。
実《じつ》の処《ところ》仏の前では、何か私《わたくし》が自分に懺悔《ざんげ》でもしまするようで心苦しい。此処《ここ》でありますと大きに寛《くつろ》ぐでございます。
師のかげを七|尺《しゃく》去るともうなまけの通りで、困ったものでありますわ。
そこで客人でございます。――
日頃のお話ぶり、行為《おこない》、御容子《ごようす》な、」
「どういう人でした。」
「それは申しますまい。私も、盲目《めくら》の垣覗《かきのぞ》きよりもそッと近い、机覗《つくえのぞ》きで、読んでおいでなさった、書物《しょもつ》などの、お話も伺《うかが》って、何をなさる方じゃと言う事も存じておりますが、経文《きょうもん》に書いてあることさえ、愚昧《ぐまい》に饒舌《しゃべ》ると間違います。
故人をあやまり伝えてもなりませず、何か評《ひょう》をやるようにも当りますから、唯々《ただただ》、かのな、婦人との模様だけ、お物語
前へ
次へ
全95ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング