ッ》つけりゃ血になるだ、なぞと、ひそひそ話《ばなし》を遣《や》るのでござって、」
「そういう人たちはまた可《い》い塩梅《あんばい》に穿《ほ》り当てないもんですよ。」
 と顔を見合わせて二人が笑った。
「よくしたものでございます。いくら隠していることでも何処《どこ》をどうして知れますかな。
 いや、それについて、」
 出家は思出《おもいだ》したように、
「こういう話がございます。その、誰にも言うな、と堅く口留《くちど》めをされた斉之助《せいのすけ》という小児《こども》が、(父様《とっさま》は野良《のら》へ行って、穴のない天保銭《てんぽうせん》をドシコと背負《しょ》って帰らしたよ。)
 ……如何《いかが》でござる、ははははは。」
「なるほど、穴のない天保銭。」
「その穴のない天保銭が、当主でございます。多額納税議員《たがくのうぜいぎいん》、玉脇斉之助《たまわきせいのすけ》、令夫人おみを殿、その歌をかいた美人であります、如何《いかが》でございます、貴下《あなた》、」

       十二

「先ずお茶を一ツ。御約束通り渋茶でござって、碌《ろく》にお茶台《ちゃだい》もありませんかわりには、がら
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