せえ、と小児《こども》が呼びに来た時分、と申すで、お昼頃でありましょうな。
 朝|疾《と》くから、出しなには寒かったで、布子《ぬのこ》の半纏《はんてん》を着ていたのが、その陽気なり、働き通しじゃ。親仁殿は向顱巻《むこうはちまき》、大肌脱《おおはだぬぎ》で、精々《せっせっ》と遣《や》っていた処《ところ》。大抵《たいてい》借用分の地券面《ちけんめん》だけは、仕事が済んで、これから些《ち》とほまちに山を削ろうという料簡《りょうけん》。ずかずか山の裾《すそ》を、穿《ほ》りかけていたそうでありますが、小児《こども》が呼びに来たについて、一服《いっぷく》遣《や》るべいかで、もう一鍬《ひとくわ》、すとんと入れると、急に土が軟《やわら》かく、ずぶずぶと柄《え》ぐるみにむぐずり込んだで。
 ずいと、引抜いた鍬《くわ》について、じとじとと染《にじ》んで出たのが、真紅《まっか》な、ねばねばとした水じゃ、」
「死骸ですか、」と切込《きりこ》んだ。
「大違い、大違い、」
 と、出家は大きくかぶりを掉《ふ》って、
「註文《ちゅうもん》通り、金子《かね》でござる、」
「なるほど、穿当《ほりあ》てましたね。」
「穿当
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