も出来ます。美しいと申して、竜宮《りゅうぐう》や天上界《てんじょうかい》へ参らねば見られないのではござらんで、」
「じゃ現在いるんですね。」
「おりますとも。土地の人です。」
「この土地のですかい。」
「しかもこの久能谷《くのや》でございます。」
「久能谷の、」
「貴下《あなた》、何んでございましょう、今日|此処《ここ》へお出でなさるには、その家《うち》の前を、御通行《おとおり》になりましたろうで、」
「その美人の住居《すまい》の前をですか。」
と言う時、機《はた》を織った少《わか》い方の婦人《おんな》が目に浮んだ、赫燿《かくよう》として菜の花に。
「……じゃ、あの、やっぱり農家の娘で、」
「否々《いやいや》、大財産家《だいざいさんか》の細君でございます。」
「違いました、」
と我を忘れて、呟《つぶや》いたが、
「そうですか、大財産家《おおがねもち》の細君ですか、じゃもう主《ぬし》ある花なんですね。」
「さようでございます。それがために、貴下《あなた》、」
「なるほど、他人のものですね。そうして誰が見ても綺麗《きれい》ですか、美人なんですかい。」
「はい、夏向《なつむき》は随分《ず
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