《くしょう》するある而已《のみ》……
「これは、飛んだ処《ところ》へ引合いに出しました、」
 と言って打笑《うちわら》い、
「おっしゃる事と申し、やはりこういう事からお知己《ちかづき》になったと申し、うっかり、これは、」
「否《いや》、結構ですとも。恋で死ぬ、本望です。この太平の世に生れて、戦場で討死《うちじに》をする機会がなけりゃ、おなじ畳の上で死ぬものを、憧《こが》れじにが洒落《しゃれ》ています。
 華族の金満家《きんまんか》へ生れて出て、恋煩《こいわずら》いで死ぬ、このくらいありがたい事はありますまい。恋は叶《かな》う方が可《よ》さそうなもんですが、そうすると愛別離苦《あいべつりく》です。
 唯《ただ》死ぬほど惚《ほ》れるというのが、金《かね》を溜《た》めるより難《かた》いんでしょう。」
「真《まこと》に御串戯《ごじょうだん》ものでおいでなさる。はははは、」
「真面目《まじめ》ですよ。真面目だけなお串戯《じょうだん》のように聞えるんです。あやかりたい人ですね。よくそんなのを見つけましたね。よくそんな、こがれ死《じに》をするほどの婦人が見つかりましたね。」
「それは見ることは誰にで
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