なりともお姿をと言う。
真個《まこと》に、ああいう世に稀《まれ》な美人ほど、早く結縁《けちえん》いたして仏果《ぶっか》を得た験《ためし》も沢山《たくさん》ございますから。
それを大掴《おおづかみ》に、恋歌《こいか》を書き散らして参った。怪《け》しからぬ事と、さ、それも人によりけり、御経《おきょう》にも、若有女人設欲求男《にゃくうにょにんせつよくぐなん》、とありまするから、一概《いちがい》に咎《とが》め立てはいたさんけれども。あれがために一人殺したでござります。」
聞くものは一驚《いっきょう》を吃《きっ》した。菜の花に見た蛇のそれより。
九
「まさかとお思いなさるでありましょう、お話が大分|唐突《だしぬけ》でござったで、」
出家は頬に手をあてて、俯《うつむ》いてやや考え、
「いや、しかし恋歌《こいか》でないといたして見ますると、その死んだ人の方《ほう》が、これは迷いであったかも知れんでございます。」
「飛んだ話じゃありませんか、それはまたどうした事ですか。」
と、こなたは何時《いつ》か、もう御堂《おどう》の畳に、にじり上《あが》っていた。よしありげな物語を聞く
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