すか。人間だって、皮、血、肉、五臓《ごぞう》、六腑《ろっぷ》、そんなもので束《つか》ねあげて、これに衣《き》ものを着せるんです。第一|貴下《あなた》、美人だって、たかがそれまでのもんだ。
しかし、人には霊魂《れいこん》がある、偶像にはそれがない、と言うかも知れん。その、貴下《あなた》、その貴下《あなた》、霊魂が何だか分らないから、迷いもする、悟りもする、危《あやぶ》みもする、安心もする、拝みもする、信心もするんですもの。
的《まと》がなくって弓の修業が出来ますか。軽業《かるわざ》、手品《てじな》だって学ばねばならんのです。
偶像は要《い》らないと言う人に、そんなら、恋人は唯《た》だ慕う、愛する、こがるるだけで、一緒にならんでも可《い》いのか、姿を見んでも可《い》いのか。姿を見たばかりで、口を利かずとも、口を利いたばかりで、手に縋《すが》らずとも、手に縋っただけで、寝ないでも、可《い》いのか、と聞いて御覧なさい。
せめて夢にでも、その人に逢《あ》いたいのが実情です。
そら、幻にでも神仏《かみほとけ》を見たいでしょう。
釈迦《しゃか》、文殊《もんじゅ》、普賢《ふげん》、勢至《せ
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