だ年配ではありませんけれども、」
「分りましたとも。青年の、しかも書生《しょせい》が、とおっしゃるのでしょう。
否《いいえ》、そういう御遠慮をなさるから、それだから不可《いけ》ません。それだから、」
とどうしたものか、じりじりと膝を向け直して、
「段々お宗旨《しゅうし》が寂《さび》れます。こちらは何《なに》お宗旨だか知りませんが。
対手《あいて》は老朽《おいく》ちたものだけで、年紀《とし》の少《すくな》い、今の学校生活でもしたものには、とても済度《さいど》はむずかしい、今さら、観音《かんおん》でもあるまいと言うようなお考えだから不可《いか》んのです。
近頃は爺婆《じじばば》の方が横着《おうちゃく》で、嫁をいじめる口叱言《くちこごと》を、お念仏で句読《くとう》を切ったり、膚脱《はだぬぎ》で鰻《うなぎ》の串《くし》を横銜《よこぐわ》えで題目を唱《とな》えたり、……昔からもそういうのもなかったんじゃないが、まだまだ胡散《うさん》ながら、地獄極楽《じごくごくらく》が、いくらか念頭にあるうちは始末がよかったのです。今じゃ、生悟《なまさと》りに皆《みんな》が悟りを開いた顔で、悪くすると地獄
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