、貴下《あなた》がたのような御仁《ごじん》の御宿《おやど》をいたしたことがありまする。
 御夫婦でも宜《よろ》しい。お二人ぐらいは楽でありますから、」
「はい、ありがとう。」
 と莞爾《にっこり》して、
「ちょっと、通りがかりでは、こういう処《ところ》が、こちらにあろうとは思われませんね。真個《ほんとう》に佳《い》い御堂ですね、」
「折々|御遊歩《ごゆうほ》においで下さい。」
「勿体《もったい》ない、おまいりに来ましょう。」
 何心《なにごころ》なく言った顔を、訝《いぶか》しそうに打視《うちなが》めた。

       七

 出家は膝に手を置いて、
「これは、貴下方《あなたがた》の口から、そういうことを承《うけたまわ》ろうとは思わんでありました。」
「何故《なぜ》ですか、」
 と問うては見たが、予《あらかじ》め、その意味を解するに難《かと》うはないのであった。
 出家も、扁《ひらた》くはあるが、ふっくりした頬に笑《えみ》を含んで、
「何故《なぜ》と申すでもありませんがな……先ず当節のお若い方が……というのでござる。はははは、近い話がな。最《もっと》もそう申すほど、私《わたくし》が、ま
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