《こづくえ》の前に坐って、火入《ひいれ》ばかり、煙草《たばこ》なしに、灰のくすぼったのを押出《おしだ》して、自分も一膝《ひとひざ》、こなたへ進め、
「些《ちっ》とお休み下さい。」
また、かさかさと袂《たもと》を探って、
「やあ、マッチは此処《ここ》にもござった、ははは、」
と、も一《ひと》ツ机の下から。
「それではお邪魔を、ちょっと、拝借。」
とこなたは敷居越《しきいごし》に腰をかけて、此処《ここ》からも空に連なる、海の色より、より濃《こまやか》な霞《かすみ》を吸った。
「真個《ほんと》に、結構な御堂《おどう》ですな、佳《い》い景色じゃありませんか。」
「や、もう大破《たいは》でござって。おもりをいたす仏様に、こう申し上げては済まんでありますがな。ははは、私力《わたくしちから》にもおいそれとは参りませんので、行届《ゆきとど》かんがちでございますよ。」
六
「随分《ずいぶん》御参詣はありますか。」
先ず差当《さしあた》り言うことはこれであった。
出家は頷《うなず》くようにして、机の前に座を斜めに整然《きちん》と坐り、
「さようでございます。御繁昌《ごはんじょう
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