《かんぜおん》は咎《とが》め給《たま》わぬ。
さればこれなる彫金《ほりきん》、魚政《うおまさ》はじめ、此処《ここ》に霊魂の通《かよ》う証拠には、いずれも巡拝《じゅんぱい》の札《ふだ》を見ただけで、どれもこれも、女名前《おんななまえ》のも、ほぼその容貌と、風采《ふうさい》と、従ってその挙動までが、朦朧《もうろう》として影の如く目に浮ぶではないか。
かの新聞で披露《ひろう》する、諸種の義捐金《ぎえんきん》や、建札《たてふだ》の表《ひょう》に掲示する寄附金の署名が写実である時に、これは理想であるといっても可《よ》かろう。
微笑《ほほえ》みながら、一枚ずつ。
扉の方へうしろ向けに、大《おおき》な賽銭箱《さいせんばこ》のこなた、薬研《やげん》のような破目《われめ》の入った丸柱《まるばしら》を視《なが》めた時、一枚|懐紙《かいし》の切端《きれはし》に、すらすらとした女文字《おんなもじ》。
[#天から4字下げ]うたゝ寐《ね》に恋しき人を見てしより
[#天から9字下げ]夢てふものは頼みそめてき
[#天から16字下げ]――玉脇《たまわき》みを――
と優《やさ》しく美《うつくし》く書いたのがあっ
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