言うまでもない。狐格子《きつねごうし》、唐戸《からど》、桁《けた》、梁《うつばり》、※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》すものの此処《ここ》彼処《かしこ》、巡拝《じゅんぱい》の札《ふだ》の貼りつけてないのは殆どない。
彫金《ほりきん》というのがある、魚政《うおまさ》というのがある、屋根安《やねやす》、大工鉄《だいてつ》、左官金《さかんきん》。東京の浅草《あさくさ》に、深川《ふかがわ》に。周防国《すおうのくに》、美濃《みの》、近江《おうみ》、加賀《かが》、能登《のと》、越前《えちぜん》、肥後《ひご》の熊本、阿波《あわ》の徳島。津々浦々《つつうらうら》の渡鳥《わたりどり》、稲負《いなおお》せ鳥《どり》、閑古鳥《かんこどり》。姿は知らず名を留《と》めた、一切の善男子《ぜんなんし》善女人《ぜんにょにん》。木賃《きちん》の夜寒《よさむ》の枕にも、雨の夜の苫船《とまぶね》からも、夢はこの処《ところ》に宿るであろう。巡礼たちが霊魂《たましい》は時々|此処《ここ》に来て遊《あす》ぼう。……おかし、一軒一枚の門札《もんふだ》めくよ。
五
一座の霊地《れいち》は、渠《
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