ども、欄干《らんかん》は影も留《とど》めない。昔はさこそと思われた。丹塗《にぬり》の柱、花狭間《はなはざま》、梁《うつばり》の波の紺青《こんじょう》も、金色《こんじき》の竜《りゅう》も色さみしく、昼の月、茅《かや》を漏《も》りて、唐戸《からど》に蝶《ちょう》の影さす光景《ありさま》、古き土佐絵《とさえ》の画面に似て、しかも名工の筆意《ひつい》に合《かな》い、眩《まば》ゆからぬが奥床《おくゆか》しゅう、そぞろに尊く懐《なつか》しい。
格子《こうし》の中は暗かった。
戸張《とばり》を垂れた御廚子《みずし》の傍《わき》に、造花《つくりばな》の白蓮《びゃくれん》の、気高く俤《おもかげ》立つに、頭《こうべ》を垂れて、引退《ひきしりぞ》くこと二、三尺。心静かに四辺《あたり》を見た。
合天井《ごうてんじょう》なる、紅々白々《こうこうはくはく》牡丹《ぼたん》の花、胡粉《ごふん》の俤《おもかげ》消え残り、紅《くれない》も散留《ちりとま》って、あたかも刻《きざ》んだものの如く、髣髴《ほうふつ》として夢に花園《はなぞの》を仰《あお》ぐ思いがある。
それら、花にも台《うてな》にも、丸柱《まるばしら》は
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