きわ》細くなったが、かえって柔《やわら》かに草を踏んで、きりきりはたり、きりきりはたりと、長閑《のどか》な機《はた》の音に送られて、やがて仔細《しさい》なく、蒼空《あおぞら》の樹《こ》の間《ま》漏《も》る、石段の下《もと》に着く。
この石段は近頃すっかり修復が出来た。(従って、爪尖《つまさき》のぼりの路も、草が分れて、一筋《ひとすじ》明らさまになったから、もう蛇も出まい、)その時分は大破して、丁《ちょう》ど繕《つくろ》いにかかろうという折から、馬はこの段の下《した》に、一軒、寺というほどでもない住職《じゅうしょく》の控家《ひかえや》がある、その背戸《せど》へ石を積んで来たもので。
段を上《のぼ》ると、階子《はしご》が揺《ゆれ》はしまいかと危《あやぶ》むばかり、角《かど》が欠け、石が抜け、土が崩れ、足許も定まらず、よろけながら攀《よ》じ上《のぼ》った。見る見る、目の下の田畠《たはた》が小さくなり遠くなるに従うて、波の色が蒼《あお》う、ひたひたと足許に近づくのは、海を抱《いだ》いたかかる山の、何処《いずこ》も同じ習《ならい》である。
樹立《こだ》ちに薄暗い石段の、石よりも堆《うずたか
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