《ほりあ》てました。海の中でも紅《べに》色の鱗《うろこ》は目覚《めざま》しい。土を穿《ほ》って出る水も、そういう場合には紫より、黄色より、青い色より、その紅色が一番見る目を驚かせます。
はて、何んであろうと、親仁殿《おやじどの》が固くなって、もう二、三度|穿《ほ》り拡げると、がっくり、うつろになったので、山の腹へ附着《くッつ》いて、こう覗《のぞ》いて見たそうにござる。」
十一
「大蛇《だいじゃ》が顋《あぎと》を開《あ》いたような、真紅《まっか》な土の空洞《うつろ》の中に、づほらとした黒い塊《かたまり》が見えたのを、鍬《くわ》の先で掻出《かきだ》して見ると――甕《かめ》で。
蓋《ふた》が打欠《ぶっか》けていたそうでございますが、其処《そこ》からもどろどろと、その丹色《にいろ》に底澄《そこす》んで光のある粘土《ねばつち》ようのものが充満《いっぱい》。
別に何んにもありませんので、親仁殿《おやじどの》は惜気《おしげ》もなく打覆《ぶっかえ》して、もう一箇《ひとつ》あった、それも甕で、奥の方へ縦《たて》に二ツ並んでいたと申します――さあ、この方が真物《ほんもの》でござった。
開《あ》けかけた蓋を慌《あわ》てて圧《おさ》えて、きょろきょろと其処《そこ》ら※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》したそうでございますよ。
傍《そば》にいて覗《のぞ》き込んでいた、自分の小児《こども》をさえ、睨《にら》むようにして、じろりと見ながら、どう悠々《ゆうゆう》と、肌《はだ》なぞを入れておられましょう。
素肌《すはだ》へ、貴下《あなた》、嬰児《あかんぼ》を負《おぶ》うように、それ、脱いで置いたぼろ半纏《ばんてん》で、しっかりくるんで、背負上《しょいあ》げて、がくつく腰を、鍬《くわ》を杖《つえ》にどッこいなじゃ。黙っていろよ、何んにも言うな、きっと誰にも饒舌《しゃべ》るでねえぞ、と言い続けて、内《うち》へ帰って、納戸《なんど》を閉切《しめき》って暗くして、お仏壇《ぶつだん》の前へ筵《むしろ》を敷いて、其処《そこ》へざくざくと装上《もりあ》げた。尤《もっと》も年が経《た》って薄黒くなっていたそうでありますが、その晩から小屋は何んとなく暗夜《やみよ》にも明るかった、と近所のものが話でござって。
極性《ごくしょう》な朱《しゅ》でござったろう、ぶちまけた甕《か
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