も高声《たかごえ》の大笑い、
「馬鹿な奴だ。」
「馬鹿野郎。」
ポクポクと来た巡査に、散策子が、縋《すが》りつくようにして、一言《ひとこと》いうと、
「角兵衛が、ははは、そうじゃそうで。」
死骸《しがい》はその日|終日《ひねもす》見当らなかったが、翌日しらしらあけの引潮《ひきしお》に、去年の夏、庵室《あんじつ》の客が溺れたとおなじ鳴鶴《なきつる》ヶ|岬《さき》の岩に上《あが》った時は二人であった。顔が玉《たま》のような乳房《ちぶさ》にくッついて、緋母衣《ひほろ》がびっしょり、その雪の腕《かいな》にからんで、一人は美《び》にして艶《えん》であった。玉脇の妻は霊魂《れいこん》の行方《ゆくえ》が分ったのであろう。
さらば、といって、土手の下で、分れ際《ぎわ》に、やや遠ざかって、見返った時――その紫の深張《ふかばり》を帯のあたりで横にして、少し打傾《うちかたむ》いて、黒髪《くろかみ》の頭《かしら》おもげに見送っていた姿を忘れぬ。どんなに潮《うしお》に乱れたろう。渚《なぎさ》の砂は、崩しても、積る、くぼめば、たまる、音もせぬ。ただ美しい骨が出る。貝の色は、日の紅《くれない》、渚の雪、浪《な
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