ら、固《もと》より馴れた目を遮《さえぎ》りはせぬ。
かつ人《ひと》一人《ひとり》いなければ、真昼の様な月夜とも想われよう。長閑《のどか》さはしかし野にも山にも増《まさ》って、あらゆる白砂《はくさ》の俤《おもかげ》は、暖《あたたか》い霧に似ている。
鳩は蒼空《あおぞら》を舞うのである。ゆったりした浪《なみ》にも誘《さそ》われず、風にも乗らず、同一処《おなじところ》を――その友は館《やかた》の中に、ことことと塒《ねぐら》を踏んで、くくと啼《な》く。
人はこういう処《ところ》に、こうしていても、胸の雲霧《くもきり》の霽《は》れぬ事は、寐《ね》られぬ衾《ふすま》と相違《そうい》はない。
徒《いたず》らに砂を握れば、くぼみもせず、高くもならず、他愛《たわい》なくほろほろと崩れると、また傍《かたわら》からもり添える。水を掴《つか》むようなもので、捜《さぐ》ればはらはらとただ貝が出る。
渚《なぎさ》には敷満《しきみ》ちたが、何んにも見えない処でも、纔《わずか》に砂を分ければ貝がある。まだこの他に、何が住んでいようも知れぬ。手の届く近い処がそうである。
水の底を捜したら、渠《かれ》がために
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