るに過ぎずして、人の妻たるが故《ゆゑ》に婦人が其本分を尽したりとはいふを得ず。渠等《かれら》が天命の職分たるや、花の如く、雪の如く、唯《たゞ》、美、これを以《もつ》て吾人男性に対すべきのみ。
 男子の、花を美とし、雪を美とし、月を美とし、杖を携へて、瓢《へう》を荷《にな》ひて、赤壁《せきへき》に賦《ふ》し、松島に吟ずるは、畢竟《ひつきやう》するに未《いま》だ美人を得ざるものか、或《あるひ》は恋に失望したるものの万《ばん》止《や》むを得ずしてなす、負惜《まけをしみ》の好事《かうず》に過ぎず。
 玉の腕《かひな》は真の玉よりもよく、雪の膚《はだへ》は雨の結晶せるものよりもよく、太液《たいえき》の芙蓉《ふよう》の顔《かんばせ》は、不忍《しのばず》の蓮《はす》よりも更《さら》に好《よ》し、これを然《しか》らずと人に語るは、俳優《やくしや》に似たがる若旦那と、宗教界の偽善者のみなり。
 されば婦人は宇宙間に最も美なるものにあらずや、猶且《なほかつ》美ならざるべからざるものにあらずや。
 心の美といふ、心の美、貞操か、淑徳か、試みに描きて見よ。色黒く眉《まゆ》薄く、鼻は恰《あたか》もあるが如く、唇
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