手《て》を觸《ふ》れなかつたのは、濡《ぬ》れるのを厭《いと》つたのでない、波《なみ》を恐《おそ》れたのでない。圓山川《まるやまがは》の膚《はだ》に觸《ふ》れるのを憚《はゞか》つたのであつた。
城崎《きのさき》は――今《いま》も恁《かく》の如《ごと》く目《め》に泛《うか》ぶ。
こゝに希有《けう》な事《こと》があつた。宿《やど》にかへりがけに、客《きやく》を乘《の》せた俥《くるま》を見《み》ると、二臺三臺《にだいさんだい》、俥夫《くるまや》が揃《そろ》つて手《て》に手《て》に鐵棒《かなぼう》を一條《ひとすぢ》づゝ提《さ》げて、片手《かたて》で楫《かぢ》を壓《お》すのであつた。――煙草《たばこ》を買《か》ひながら聞《き》くと、土地《とち》に數《かず》の多《おほ》い犬《いぬ》が、俥《くるま》に吠附《ほえつ》き戲《ざ》れかゝるのを追拂《おひはら》ふためださうである。駄菓子屋《だぐわしや》の縁臺《えんだい》にも、船宿《ふなやど》の軒下《のきした》にも、蒲燒屋《かばやきや》の土間《どま》にも成程《なるほど》居《ゐ》たが。――言《い》ふうちに、飛《とび》かゝつて、三疋四疋《さんびきしひき》、就中
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