―住《すみ》の江丸《えまる》、濱鶴丸《はまづるまる》と大看板《おほかんばん》を上《あ》げたのは舟宿《ふなやど》である。丹後行《たんごゆき》、舞鶴行《まひづるゆき》――立《た》つて見《み》たばかりでも、退屈《たいくつ》の餘《あま》りに新聞《しんぶん》の裏《うら》を返《かへ》して、バンクバー、シヤトル行《ゆき》を睨《にら》むが如《ごと》き、情《じやう》のない、他人《たにん》らしいものではない。――蘆《あし》の上《うへ》をちら/\と舞《ま》ふ陽炎《かげろふ》に、袖《そで》が鴎《かもめ》になりさうで、遙《はるか》に色《いろ》の名所《めいしよ》が偲《しの》ばれる。手輕《てがる》に川蒸汽《かはじようき》でも出《で》さうである。早《は》や、その蘆《あし》の中《なか》に並《なら》んで、十四五艘《じふしごさう》の網船《あみぶね》、田船《たぶね》が浮《う》いて居《ゐ》た。
どれかが、黄金《わうごん》の魔法《まはふ》によつて、雪《ゆき》の大川《おほかは》の翡翠《ひすゐ》に成《な》るらしい。圓山川《まるやまがは》の面《おもて》は今《いま》、こゝに、其《そ》の、のんどりと和《なご》み軟《やはら》いだ唇《くちび
前へ
次へ
全28ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング