まへ》なる橋《はし》の上《うへ》に、頬被《ほゝかぶり》した山家《やまが》の年増《としま》が、苞《つと》を開《ひら》いて、一人《ひとり》行《ゆ》く人《ひと》のあとを通《とほ》つた、私《わたし》を呼《よ》んで、手《て》を擧《あ》げて、「大《おほき》な自然薯《じねんじよ》買《か》うておくれなはらんかいなア。」……はおもしろい。朝《あさ》まだきは、旅館《りよくわん》の中庭《なかには》の其處《そこ》此處《こゝ》を、「大《おほ》きな夏蜜柑《なつみかん》買《か》はんせい。」……親仁《おやぢ》の呼聲《よびごゑ》を寢《ね》ながら聞《き》いた。働《はたら》く人《ひと》の賣聲《うりごゑ》を、打興《うちきよう》ずるは失禮《しつれい》だが、旅人《たびびと》の耳《みゝ》には唄《うた》である。
 漲《みなぎ》るばかり日《ひ》の光《ひかり》を吸《す》つて、然《しか》も輕《かる》い、川添《かはぞひ》の道《みち》を二町《にちやう》ばかりして、白《しろ》い橋《はし》の見《み》えたのが停車場《ていしやば》から突通《つきとほ》しの處《ところ》であつた。橋《はし》の詰《つめ》に、――丹後行《たんごゆき》、舞鶴行《まひづるゆき》―
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