羽屋《かつぱや》もおもしろい。
 へい、ようこそお越《こ》しで。挨拶《あいさつ》とともに番頭《ばんとう》がズイと掌《てのひら》で押出《おしだ》して、扨《さ》て默《だま》つて顏色《かほいろ》を窺《うかゞ》つた、盆《ぼん》の上《うへ》には、湯札《ゆふだ》と、手拭《てぬぐひ》が乘《の》つて、上《うへ》に請求書《せいきうしよ》、むかし「かの」と云《い》つたと聞《き》くが如《ごと》き形式《けいしき》のものが飜然《ひらり》とある。おや/\前勘《まへかん》か。否《いな》、然《さ》うでない。……特《とく》、一《いち》、二《に》、三等《さんとう》の相場《さうば》づけである。温泉《をんせん》の雨《あめ》を掌《たなごころ》に握《にぎ》つて、我《わ》がものにした豪儀《ごうぎ》な客《きやく》も、ギヨツとして、此《こ》れは悄氣《しよげ》る……筈《はず》の處《ところ》を……又《また》然《さ》うでない。實《じつ》は一昨年《いつさくねん》の出雲路《いづもぢ》の旅《たび》には、仔細《しさい》あつて大阪朝日新聞《おほさかあさひしんぶん》學藝部《がくげいぶ》の春山氏《はるやまし》が大屋臺《おほやたい》で後見《こうけん》につい
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