前《まへ》へ立《た》つて、小兒《こども》かと思《おも》ふ小《ちひ》さな按摩《あんま》どのが一人《ひとり》、笛《ふえ》を吹《ふ》きながら後形《うしろむき》で行《ゆ》くのである。ピイロロロロピイーとしよんぼりと行《ゆ》く。トトトン、トトトン、と間《ま》を緩《ゆる》く、其處等《そこら》の藝妓屋《げいしやや》で、朝稽古《あさげいこ》の太鼓《たいこ》の音《おと》、ともに何《なん》となく翠《みどり》の滴《したゝ》る山《やま》に響《ひゞ》く。
まだ羽織《はおり》も着《き》ない。手織縞《ておりじま》の茶《ちや》つぽい袷《あはせ》の袖《そで》に、鍵裂《かぎざき》が出來《でき》てぶら下《さが》つたのを、腕《うで》に捲《ま》くやうにして笛《ふえ》を握《にぎ》つて、片手《かたて》向《むか》うづきに杖《つゑ》を突張《つツぱ》つた、小倉《こくら》の櫂《かひ》の口《くち》が、ぐたりと下《さが》つて、裾《すそ》のよぢれ上《あが》つた痩脚《やせずね》に、ぺたんことも曲《ゆが》んだとも、大《おほ》きな下駄《げた》を引摺《ひきず》つて、前屈《まへかゞ》みに俯向《うつむ》いた、瓢箪《へうたん》を俯向《うつむき》に、突《つ》
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