もそれか、と辿《たど》つて、はる/″\と來《き》た城崎《きのさき》で、佐渡《さど》の沖《おき》へ船《ふね》が飛《と》んで、キラリと飛魚《とびうを》が刎出《はねだ》したから、きたなくも怯《おびや》かされたのである。――晩《ばん》もお總菜《さうざい》に鮭《さけ》を退治《たいぢ》た、北海道《ほくかいだう》の産《さん》である。茶《ちや》うけに岡山《をかやま》のきび團子《だんご》を食《た》べた處《ところ》で、咽喉《のど》に詰《つま》らせる法《はふ》はない。これしかしながら旅《たび》の心《こゝろ》であらう。――

 夜《よ》はやゝ更《ふ》けた。はなれの十疊《じふでふ》の奧座敷《おくざしき》は、圓山川《まるやまがは》の洲《す》の一處《ひとところ》を借《か》りたほど、森閑《しんかん》ともの寂《さび》しい。あの大川《おほかは》は、いく野《の》の銀山《ぎんざん》を源《みなもと》に、八千八谷《はつせんやたに》を練《ね》りに練《ね》つて流《なが》れるので、水《みづ》は類《たぐひ》なく柔《やはら》かに滑《なめらか》だ、と又《また》按摩《あんま》どのが今度《こんど》は聲《こゑ》を沈《しづ》めて話《はな》した。豐岡
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