地《とち》の由緒《ゆゐしよ》と、奧行《おくゆき》をもの語《がた》る。手《て》を突張《つツぱ》ると外《はづ》れさうな棚《たな》から飛出《とびだ》した道具《だうぐ》でない。藏《くら》から顯《あら》はれた器《うつは》らしい。御馳走《ごちそう》は――
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鯛《たひ》の味噌汁《みそしる》。人參《にんじん》、じやが、青豆《あをまめ》、鳥《とり》の椀《わん》。鯛《たひ》の差味《さしみ》。胡瓜《きうり》と烏賊《いか》の酢《す》のもの。鳥《とり》の蒸燒《むしやき》。松蕈《まつたけ》と鯛《たひ》の土瓶蒸《どびんむし》。香《かう》のもの。青菜《あをな》の鹽漬《しほづけ》、菓子《くわし》、苺《いちご》。
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所謂《いはゆる》、貧僧《ひんそう》のかさね齋《どき》で、ついでに翌朝《よくてう》の分《ぶん》を記《しる》して置《お》く。
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蜆《しゞみ》、白味噌汁《しろみそしる》。大蛤《おほはまぐり》、味醂蒸《みりんむし》。並《ならび》に茶碗蒸《ちやわんむし》。蕗《ふき》、椎茸《しひたけ》つけあはせ、蒲鉾《かまぼこ》、鉢《はち》。淺草海苔《あさくさのり》。
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大《おほき》な蛤《はまぐり》、十《と》ウばかり。(註《ちう》、ほんたうは三個《さんこ》)として、蜆《しゞみ》も見事《みごと》だ、碗《わん》も皿《さら》もうまい/\、と慌《あわ》てて瀬戸《せと》ものを噛《かじ》つたやうに、覺《おぼ》えがきに記《しる》してある。覺《おぼ》え方《かた》はいけ粗雜《ぞんざい》だが、料理《れうり》はいづれも念入《ねんい》りで、分量《ぶんりやう》も鷹揚《おうやう》で、聊《いさゝか》もあたじけなくない處《ところ》が嬉《うれ》しい。
三味線《さみせん》太鼓《たいこ》は、よその二階三階《にかいさんがい》の遠音《とほね》に聞《き》いて、私《わたし》は、ひつそりと按摩《あんま》と話《はな》した。此《こ》の按摩《あんま》どのは、團栗《どんぐり》の如《ごと》く尖《とが》つた頭《あたま》で、黒目金《くろめがね》を掛《か》けて、白《しろ》の筒袖《つゝそで》の上被《うはつぱり》で、革鞄《かはかばん》を提《さ》げて、そくに立《た》つて、「お療治《れうぢ》。」と顯《あら》はれた。――勝手《かつて》が違《ちが》つて、私《わたし》は一寸《ちよつと》不平《ふへい
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