だ》すやうにして下駄《げた》を穿《は》き、上へ蔽《おっ》かぶさつて、沓脱越《くつぬぎごし》に此方《こちら》から戸をあけるお辻の脇あけの下あたりから、つむりを出して、ひよこ/\と出て行つた。渠《かれ》は些《ち》と遠方をかけて、遠縁のものの通夜《つや》に詣《まい》つたのである。其がために女《むすめ》が一人だからと、私を泊《と》めたのであつた。

        三

 枕に就《つ》いたのは、良《やや》ほど過ぎて、私の家《うち》の職人衆が平時《いつも》の湯から帰る時分。三人づれで、声高《こわだか》にものを言つて、笑ひながら入つた、何《ど》うした、などと言ふのが手に取るやうに聞えたが、又|笑声《わらいごえ》がして、其から寂然《ひっそり》。
 戸外《おもて》の方は騒がしい、仏間《ぶつま》の方《かた》を、とお辻はいつたけれども其方《そっち》を枕にすると、枕頭《まくらもと》の障子|一重《ひとえ》を隔てて、中庭といふではないが一坪ばかりのしツくひ叩《たたき》の泉水《せんすい》があつて、空は同一《おなじ》ほど長方形に屋根を抜いてあるので、雨も雪も降込《ふりこ》むし、水が溜《たま》つて濡《ぬ》れて居るのに
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