。」
「大人《おとな》しいね。感心、」と頭を撫《な》でる手つきをして、
「どれ、其《それ》では、」楊枝を棄《す》てると、やつとこさ、と立ち上つた。
 お辻が膳《ぜん》を下げる内に、母親は次の仏間《ぶつま》で着換《きか》へる様子、其処《そこ》に箪笥《たんす》やら、鏡台やら。
 最一《もひと》ツ六畳が別に戸外《おもて》に向いて居て、明取《あかりとり》が皆《みんな》で三|間《げん》なり。
 母親はやがて、繻子《しゅす》の帯を、前結びにして、風呂敷包《ふろしきづつみ》を持つて顕《あらわ》れた。お辻の大柄な背のすらりとしたのとは違ひ、丈《たけ》も至つて低く、顔容《かおかたち》も小造《こづくり》な人で、髪も小さく結《ゆ》つて居た。
「それでは、お辻や。」
「あい、」と、がちや/\いはせて居た、彼方《かなた》の勝手で返事をし、襷《たすき》がけのまゝ、駆けて来て、
「気をつけて行らつしやいましよ。」
「坊《ぼっ》ちやん、緩《ゆっく》り遊んでやつて下さい。直ぐ寝つちまつちやあ不可《いけ》ませんよ、何《ど》うも御苦労様なことツたら、」
 とあとは独言《ひとりごと》、框《かまち》に腰をかけて、足を突出《つき
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