しめき》つて、空屋に等しい暗い中に、破風《はふ》の隙《ひま》から、板目《いため》の節《ふし》から、差入《さしい》る日の光|一筋《ひとすじ》二筋《ふたすじ》、裾広《すそひろ》がりにぱつと明《あかる》く、得《え》も知れぬ塵埃《ちりほこり》のむら/\と立つ間《あいだ》を、兎《と》もすればひら/\と姿の見える、婦人《おんな》の影。
 転んで手をつくと、はや薬の匂《におい》がして膚《はだえ》を襲つた。此の一町《いっちょう》がかりは、軒《のき》も柱も土も石も、残らず一種の香《か》に染《し》んで居る。
 身に痛みも覚えぬのに、場所もこそあれ、此処《ここ》はと思ふと、怪しいものに捕《とら》へられた気がして、わつと泣き出した。

        二

「あれ危《あぶな》い。」と、忽《たちま》ち手を伸《の》べて肩をつかまへたのは彼《か》の婦人《おんな》で。
 其の黒髪の中の大理石のやうな顔を見ると、小さな者はハヤ震へ上つて、振※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《ふりもぎ》らうとして身をあせつて、仔雀《こすずめ》の羽《は》うつ風情《ふぜい》。
 怪しいものでも声は優しく、
「おゝ、膝《ひざ》が擦
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