の榾《ほだ》の消《き》ゆる時、夜中にフト目の覚《さ》むる折など、町中《まちなか》を籠《こ》めて芬々《ぷんぷん》と香《にお》ふ、湿《しめ》ぽい風は薬屋の気勢《けはい》なので。恐らく我国の薬種《やくしゅ》で無からう、天竺《てんじく》伝来か、蘭方《らんぽう》か、近くは朝鮮、琉球《りゅうきゅう》あたりの妙薬に相違ない。然《そ》う謂《い》へば彼《あ》の房々《ふさふさ》とある髪は、なんと、物語にこそ謂へ目前《まのあたり》、解《と》いたら裾《すそ》に靡《なび》くであらう。常に其《それ》を、束《たば》ね髪《がみ》にしてカツシと銀《しろがね》の簪《かんざし》一本、濃く且《か》つ艶《つやや》かに堆《うずたか》い鬢《びん》の中から、差覗《さしのぞ》く鼻の高さ、頬《ほお》の肉しまつて色は雪のやうなのが、眉《まゆ》を払つて、年紀《とし》の頃も定かならず、十年も昔から今にかはらぬといふのである。
内の様子も分らないから、何となく薄気味が悪いので、小児《こども》の気にも、暮方《くれがた》には前を通るさへ駆け出すばかりにする。真昼間《まっぴるま》、向う側から密《そっ》と透《すか》して見ると、窓も襖《ふすま》も閉切《
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