《はんしん》、胸もあらはに、引起《ひきおこ》されたが、両手を畳に裏返して、呼吸《いき》のあるものとは見えない。
爾時《そのとき》、右手《めて》に黒髪を搦《から》んだなり、
「人もあらうに私の男に懸想《けそう》した。さあ、何《ど》うするか、よく御覧。」
左手《ゆんで》の肱《ひじ》を鍵形《かぎなり》に曲げて、衝《つ》と目よりも高く差上《さしあ》げた、掌《たなそこ》に、細長い、青い、小さな瓶《びん》あり、捧げて、俯向《うつむ》いて、額《ひたい》に押当《おしあ》て、
「呪詛《のろい》の杉より流れし雫《しずく》よ、いざ汝《なんじ》の誓《ちかい》を忘れず、目《ま》のあたり、験《しるし》を見せよ、然《さ》らば、」と言つて、取直《とりなお》して、お辻の髪の根に口を望ませ、
「あの美少年と、容色《きりょう》も一対《いっつい》と心上《こころあが》つた淫奔女《いたずらもの》、いで/\女の玉《たま》の緒《お》は、黒髪とともに切れよかし。」
と恰《あたか》も宣告をするが如くに言つて、傾けると、颯《さっ》とかゝつて、千筋《ちすじ》の紅《くれない》溢《あふ》れて、糸を引いて、ねば/\と染《にじ》むと思ふと、丈
前へ
次へ
全21ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング