》う堪《たま》らぬ。
途端に人膚《ひとはだ》の気勢《けはい》がしたので、咽喉《のど》を噛《かま》れたらうと思つたが、然《そ》うではなく、蝋燭が、敷蒲団《しきぶとん》の端と端、お辻と並んで合せ目の、畳《たたみ》の上に置いてあつた。而《そう》して婦人《おんな》は膝《ひざ》をついて、のしかゝるやうにして、鬢《びん》の間《あい》から真白な鼻で、お辻の寐《ね》顔の半《なかば》夜具《やぐ》を引《ひっ》かついで膨らんだ前髪の、眉《まゆ》のかゝり目のふちの稍《やや》曇つて見えるのを、じつと覗込《のぞきこ》んで居るのである。おゝ、あはれ、小《ささ》やかに慎《つつ》ましい寐姿は、藻脱《もぬけ》の殻か、山に夢がさまよふなら、衝戻《つきもど》す鐘も聞えよ、と念じ危《あや》ぶむ程こそありけれ。
婦人《おんな》は右手《めて》を差伸《さしのば》して、結立《ゆいたて》の一筋《ひとすじ》も乱れない、お辻の高島田を無手《むず》と掴《つか》んで、づツと立つた。手荒さ、烈《はげ》しさ。元結《もとゆい》は切れたから、髪のずるりと解《と》けたのが、手の甲《こう》に絡《まつ》はると、宙に釣《つる》されるやうになつて、お辻は半身
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