《たけ》なる髪はほつり[#「ほつり」に傍点]と切れて、お辻は崩れるやうに、寝床の上、枕をはづして土気色《つちけいろ》の頬《ほお》を蒲団《ふとん》に埋《うず》めた。
玉の緒か、然《さ》らば玉の緒は、長く婦人《おんな》の手に奪はれて、活《い》きたる如く提《ひっさ》げられたのである。
莞爾《かんじ》として朱《しゅ》の唇の、裂けるかと片頬笑《かたほえ》み、
「腕白《わんぱく》、膝《ひざ》へ薬をことづかつてくれれば、私が来るまでもなく、此の女《むすめ》は殺せたものを、夜《よ》が明けるまで黙つて寐《ね》なよ。」といひすてにして、細腰《さいよう》楚々《そそ》たる後姿《うしろすがた》、肩を揺《ゆす》つて、束《つか》ね髱《たぼ》がざわ/\と動いたと見ると、障子の外。
蒼《あお》い光は浅葱幕《あさぎまく》を払つたやうに颯《さっ》と消えて、襖《ふすま》も壁も旧《もと》の通り、燈《ともしび》が薄暗く点《つ》いて居た。
同時に、戸外《おもて》を山手《やまて》の方《かた》へ、からこん/\と引摺《ひきず》つて行く婦人《おんな》の跫音《あしおと》、私はお辻の亡骸《なきがら》を見まいとして掻巻《かいまき》を被《
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