ま》のあたり知つて居るも道理こそ。
呀《や》、復《また》見て居たの……といつたは其の所為《せい》で、私は何の気もなかつたのであるが、之《これ》を聞くと、目をぱつちりあけたが顔を赧《あか》らめ、
「厭《いや》な!」といつて、口許《くちもと》まで天鵞絨《びろうど》の襟《えり》を引《ひっ》かぶつた。
「そして転んだのを知つてるの、をかしいな、辻《つう》ちやんは転んだのを知つてるし、彼《あ》のをばさんは、私の泊るのを知つて居たよ、皆《みんな》知つて居ら、をかしいな。」
四
「え!」と慌《あわただ》しく顔を出して、まともに向直《むきなお》つて、じつと見て、
「今夜泊ることを知つて居ました?」
「あゝ、整《ちゃん》と然《そ》う言つたんだもの。」
お辻は美しい眉《まゆ》を顰《ひそ》めた。燈火《ともしび》の影暗く、其の顔|寂《さみ》しう、
「恐《おそろ》しい人だこと、」といひかけて、再び面《おもて》を背《そむ》けると、又|深々《ふかぶか》と夜具《やぐ》をかけた。
「辻《つう》ちやん。」
「…………」
「辻《つう》ちやんてば、」
「…………」
「よう。」
こんな約束ではなかつた
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