一所《いっしょ》に居る、女主人《おんなあるじ》の甥《おい》ださうで、信濃《しなの》のもの、継母《ままはは》に苛《いじ》められて家出をして、越後なる叔母《おば》を便《たよ》つたのだと謂《い》ふ。
 此のほどから黄昏《たそがれ》に、お辻が屋根へ出て、廂《ひさし》から山手《やまて》の方《ほう》を覗《のぞ》くことが、大抵|日毎《ひごと》、其は二階の窓から私も見た。
 一体裏に空地はなし、干物《ほしもの》は屋根でする、板葺《いたぶき》の平屋造《ひらやづくり》で、お辻の家は、其真中《そのまんなか》、泉水のある処《ところ》から、二間梯子《にけんばしご》を懸けてあるので、悪戯《いたずら》をするなら小児《こども》でも上下《あがりおり》は自由な位、干物に不思議はないが、待て、お辻の屋根へ出るのは、手拭《てぬぐい》一筋《ひとすじ》棹《さお》に懸《かか》つて居る時には限らない、恰《あたか》も山の裾《すそ》へかけて紙谷町は、だら/\のぼり、斜めに高いから一目に見える、薬屋の美少年をお辻が透見《すきみ》をするのだと、内の職人どもが言《ことば》を、小耳《こみみ》にして居るさへあるに、先刻《さっき》転んだことを、目《
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