のである、俊徳丸《しゅんとくまる》の物語のつゞき、それから手拭《てぬぐい》を藪《やぶ》へ引いて行つた、踊《おどり》をする三《さん》といふ猫の話、それもこれも寝てからといふのであつたに、詰《つま》らない、寂《さび》しい、心細い、私は帰らうと思つた。丁《ちょう》ど其時《そのとき》、どんと戸を引いて、かたりと鎖《じょう》をさした我家《わがや》の響《ひびき》。
胸が轟《とどろ》いて掻巻《かいまき》の中で足をばた/\したが、堪《たま》らなくツて、くるりとはらばひになつた。目を開《あ》いて耳を澄《すま》すと、物音は聞えないで、却《かえっ》て戸外《おもて》なる町が歴然《ありあり》と胸に描かれた、暗《やみ》である。駆けて出て我家《わがや》の門《かど》へ飛着《とびつ》いて、と思ふに、夜《よ》も恁《こ》う更《ふ》けて、他人《ひと》の家からは勝手が分らず、考ふれば、毎夜|寐《ね》つきに聞く職人が湯から帰る跫音《あしおと》も、向うと此方《こちら》、音にも裏表《うらおもて》があるか、様子も違つて居た。世界が変つたほど情《なさけ》なくなつて、枕頭《まくらもと》に下《おろ》した戸外《おもて》から隔ての蔀《しとみ》
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