つた、わつしよい/\。」
やがて坂《さか》の下口《おりくち》に來《き》て、もう一足《ひとあし》で、藪《やぶ》の暗《くら》がりから茗荷谷《みやうがだに》へ出《で》ようとする時《とき》、
「おくんな。」と言《い》つて、藪《やぶ》の下《した》をちよこ/\と出《で》た、九《こゝの》ツばかりの男《をとこ》の兒《こ》。脊丈《せたけ》より横幅《よこはゞ》の方《はう》が廣《ひろ》いほどな、提革鞄《さげかばん》の古《ふる》いのを、幾處《いくところ》も結目《むすびめ》を拵《こしら》へて肩《かた》から斜《なゝ》めに脊負《せお》うてゐる。
これは界隈《かいわい》の貧民《ひんみん》の兒《こ》で、つい此《こ》の茗荷谷《みやうがだに》の上《うへ》に在《あ》る、補育院《ほいくゐん》と稱《とな》へて月謝《げつしや》を取《と》らず、時《とき》とすると、讀本《とくほん》、墨《すみ》の類《るゐ》が施《ほどこし》に出《で》て、其上《そのうへ》、通學《つうがく》する兒《こ》の、其《そ》の日《ひ》暮《ぐら》しの親達《おやたち》、父親《ちゝおや》なり、母親《はゝおや》なり、日《ひ》を久《ひさ》しく煩《わづら》つたり、雨《あめ》が
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