き》の穿物《はきもの》は、むさくるしいほど泥塗《どろまみ》れであるが、惟《おも》ふに玄關番《げんくわんばん》の學僕《がくぼく》が、悲憤《ひふん》慷慨《かうがい》の士《し》で、女《をんな》の足《あし》につけるものを打棄《うつちや》つて置《お》くのであらう。
其《そ》の穿物《はきもの》が重《おも》いために、細君《さいくん》の足《あし》の運《はこ》び敏活《びんくわつ》ならず。が其《それ》の所爲《せゐ》で散策《さんさく》に恁《かゝ》る長時間《ちやうじかん》を費《つひや》したのではない。
最《もつと》も神樂坂《かぐらざか》を歩行《ある》くのは、細君《さいくん》の身《み》に取《と》つて、些《ちつ》とも樂《たのし》みなことはなかつた。既《すで》に日《ひ》の内《うち》におさんを連《つ》れて、其《そ》の折《をり》は、二枚袷《にまいあはせ》に長襦袢《ながじゆばん》、小紋《こもん》縮緬《ちりめん》三《み》ツ紋《もん》の羽織《はおり》で、白足袋《しろたび》。何《なん》のためか深張傘《ふかばりがさ》をさして、一度《いちど》、やすもの賣《うり》の肴屋《さかなや》へ、お總菜《そうざい》の鰡《ぼら》を買《か》ひに
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