るので。さて銀側《ぎんがは》の懷中《くわいちう》時計《どけい》は、散策《さんさく》の際《さい》も身《み》を放《はな》さず、件《くだん》の帶《おび》に卷着《まきつ》けてあるのだから、時《とき》は自分《じぶん》にも明《あきら》かであらう、前《さき》に郵便局《いうびんきよく》の前《まへ》を通《とほ》つたのが六時《ろくじ》三十分《さんじつぷん》で、歸《かへ》り途《みち》に通懸《とほりかゝ》つたのが、十一時《じふいちじ》少々《せう/\》過《す》ぎて居《ゐ》た。
夏《なつ》の初《はじ》めではあるけれども、夜《よる》の此《こ》の時分《じぶん》に成《な》ると薄《うす》ら寒《さむ》いのに、細君《さいくん》の出《で》は縞《しま》のフランネルに絲織《いとおり》の羽織《はおり》、素足《すあし》に蹈臺《ふみだい》を俯着《うツつ》けて居《ゐ》る、語《ご》を換《か》へて謂《い》へば、高《たか》い駒下駄《こまげた》を穿《は》いたので、悉《くは》しく言《い》へば泥《どろ》ぽツくり。旦那《だんな》が役所《やくしよ》へ通《かよ》ふ靴《くつ》の尖《さき》は輝《かゞや》いて居《ゐ》るけれども、細君《さいくん》の他所行《よそい
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング