こ》のさきの下駄《げた》屋《や》の方《はう》が可《えゝ》か、お前《まへ》好《すき》な處《ところ》で買《か》へ、あゝん。)と念《ねん》を入《い》れて見《み》たが、矢張《やつぱり》默《だま》つて、爾時《そのとき》は、おなじ横顏《よこがほ》を一寸《ちよつと》背《そむ》けて、あらぬ處《ところ》を見《み》た。
丁度《ちやうど》左側《ひだりがは》を、二十《はたち》ばかりの色《いろ》の白《しろ》い男《をとこ》が通《とほ》つた。旦那《だんな》は稍《やゝ》濁《にご》つた聲《こゑ》の調子高《てうしだか》に、
(あゝん、何《ど》うぢや。)
(嫌《いや》ですことねえ、)と何《なに》とも着《つ》かぬことを謂《い》つたのであるが、其間《そのかん》の消息《せうそく》自《おのづか》ら神契《しんけい》默會《もくくわい》。
(にやけた奴《やつ》ぢや、國賊《こくぞく》ちゆう!)と快《こゝろよ》げに、小指《こゆび》の尖《さき》ほどな黒子《ほくろ》のある平《ひらた》な小鼻《こばな》を蠢《うごめ》かしたのである。謂《い》ふまでもないが、此《こ》のほくろは極《きは》めて僥倖《げうかう》に半《なかば》は髯《ひげ》にかくれて居《ゐ》
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