》むで、ひた/\と小波《さゝなみ》の畝《うねり》が絶《た》えず間近《まぢか》う來《く》る。往來傍《わうらいばた》には又《また》岸《きし》に臨《のぞ》むで、果《はて》しなく組違《くみちが》へた材木《ざいもく》が並《なら》べてあるが、二十三十づゝ、四《よ》ツ目形《めなり》に、井筒形《ゐづつがた》に、規律《きりつ》正《たゞ》しく、一定《いつてい》した距離《きより》を置《お》いて、何處《どこ》までも續《つゞ》いて居《ゐ》る、四《よ》ツ目《め》の間《あひだ》を、井筒《ゐづつ》の彼方《かなた》を、見《み》え隱《かく》れに、ちらほら人《ひと》が通《とほ》るが、皆《みな》默《だま》つて歩行《ある》いて居《ゐ》るので。
淋《さみし》い、森《しん》とした中《なか》に手拍子《てびやうし》が揃《そろ》つて、コツ/\コツ/\と、鐵槌《かなづち》の音《おと》のするのは、この小屋《こや》に並《なら》んだ、一棟《ひとむね》、同一《おなじ》材木納屋《ざいもくなや》の中《なか》で、三|個《こ》の石屋《いしや》が、石《いし》を鑿《き》るのである。
板圍《いたがこひ》をして、横《よこ》に長《なが》い、屋根《やね》の低《ひく》い、濕《しめ》つた暗《くら》い中《なか》で、働《はたら》いて居《ゐ》るので、三|人《にん》の石屋《いしや》も齊《ひと》しく南屋《みなみや》に雇《やと》はれて居《ゐ》るのだけれども、渠等《かれら》は與吉《よきち》のやうなのではない、大工《だいく》と一所《いつしよ》に、南屋《みなみや》の普請《ふしん》に懸《かゝ》つて居《ゐ》るので、ちやうど與吉《よきち》の小屋《こや》と往來《わうらい》を隔《へだ》てた眞向《まむか》うに、小《ちひ》さな普請小屋《ふしんごや》が、眞新《まあたらし》い、節穴《ふしあな》だらけな、薄板《うすいた》で建《た》つて居《ゐ》る、三方《さんぱう》が圍《かこ》つたばかり、編《あ》むで繋《つな》いだ繩《なは》も見《み》え、一杯《いつぱい》の日當《ひあたり》で、いきなり土《つち》の上《うへ》へ白木《しらき》の卓子《テエブル》を一|脚《きやく》据《す》ゑた、其《その》上《うへ》には大土瓶《おほどびん》が一|個《こ》、茶呑茶碗《ちやのみぢやわん》が七個《なゝつ》八個《やつ》。
後《うしろ》に置《お》いた腰掛臺《こしかけだい》の上《うへ》に、一人《ひとり》は匍匐《はらばひ》にな
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